2026-02

小説

パープル・アイリス

「潮来は桜もきれいだね。水辺の桜は趣があるなあ。潮来は、あやめのイメージしか無かったけれど、見直したよ」 潮来駅近くのビジネスホテルのフロントで、篠原啓司と記名し、チェックインを済ませた男が、フロントの女性スタッフに話しかけた。彼女はルーム...
小説

蕎麦と寅さんと私

こんにちは。ただ今ご紹介いただきました佐藤茂実です。きょうはよろしくお願いします。私は、昭和二十六年、山形県北の内陸の小さな町で生まれ育ちました。雪国の町です。十二月になると雪が降りはじめ、多い年は二メートル近く積もります。雪が消えるのは三...
小説

涙の向こうの大きな湖

土浦市の霞ヶ浦総合公園から、霞ヶ浦が見えた。霞ヶ浦は広々として豊かな水を湛えていた。公園の一角にオランダ式の風車が、ゆっくりと回っていた。すぐ近くに二階建ての洋館風のネーチャーセンターが建っていた。傍らには、数本のポプラの樹が植栽され、今で...
小説

おじいちゃんの投網

「おじいちゃん、今日ね、湖上体験スクールに行ってきたんだよ」小学四年生の宮田順平は、学校から帰るなり、ランドセルを放り出して祖父の孝太郎に言った。孝太郎は江戸時代から続く霞ヶ浦の漁師の家系だが、今は網生簀で鯉の養殖業を細々と続けてきた。しか...